6月のある日、こんなお花のオーダーがありました。
依頼は、「お悔やみの花」。

10歳の男の子が長い闘病の末、天国へ旅だったとのこと。
完治が難しい病だったそうで、いずれこの日が来ることは誰もが分かっていたそうです。

依頼主は、男の子のお母さんのご友人お二人。
お二人とも、看護師さんなので男の子の苦痛も、見守る親の苦悩も、お仕事がら推し量ることが出来るのか、亡くなった知らせを受けて、すぐに何かをしたい、してあげたいという思いから、お花を依頼されました。

ご要望は、男の子の好きだった黄色。
ひまわりを入れたい。
この2点です。
ひまわりにも、多くの種類があります。
爽やかなレモンイエロー色の「サンリッチレモン」や中心の黒目が目立たない「モネのひまわり」。

私が選んだのは、「ゴッホのひまわり」。
花びらが少し八重で、中心は茶系。濃い黄色の向日葵らしいひまわり。
そこに黄色のバラを何本か加えました。
通常、お悔やみのアレンジには、棘のあるバラは使いません。でも、なんだか入れたくなったんですよね。
ひまわりが男の子だとしたら、お友達も欲しいでしょ?
黄色のバラは女の子のお友達。同じ黄色が同調して、楽しそうなんです。

濃い紫のアルストロメリア。
紫色は古くから崇められてきた霊性の高い癒しの色です。
この癒しの色をもつ花が、お母さんを優しく包み込んでくれるよう願いを込めて入れました。


お供えの花をアレンジするときには決まって、ある空気感が漂います。
空気がクリヤーになるというか、森林の中にいるような静かで濁りがなく清い空気がお花のまわりから出てくるんです。
お祝いのアレンジを作っているときとは違う、独特の空気感。それを感じながら、アレンジを終えたとき、「あれっ?」って、作ったばかりのアレンジをマジマジと見つめてしまいました。
「ひまわりが違う!」。

何が違うかって、ひまわりの向きが変わってるんです。
アレンジ前は、花の部分が少し横に、壁を向いていたんです。終わってみたら、花が天井に上に向いてるんです。皆さんんもご存知のように、ひまわりの花は、顔のように大きな花です。その顔が少し曲がって壁を向いてたのに、真っすぐ顔を上に向けている。
アレンジしてた時間は数十分。その間に、私が気づかないうちにひまわりの花が上を向く。
こんなことは、私の経験上あり得ません!
まるで、亡くなった男の子が、ひまわりを通して「ぼく、元気だよ!」って言ってるみたい。
そんな気がしました。

元気なひまわりを、元気な男の子の姿を、はやくお母さんに届けたくなって。
「そのまま笑っていてね」って、花たちにお願いして送り出しました。